低炭素ビジネスに課題、消費者へのコスト転嫁-新技術の開発より難しいのは消費者に買ってもらうこと

――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター

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【コロンバス(米インディアナ州)】テスラが生産するようなセダンタイプの滑らかなボディの電気自動車か、あるいはカミンズがインディアナ州の研究センターで試験しているのと同じようなエンジンを搭載した大型トラック。地球温暖化対策としてより大きく貢献するのはどちらの技術だろうか。

 正解は後者だ。理由は簡単、大抵の人はテスラの顧客ではなく、カミンズの顧客と同じように考えるからだ。テスラ車を買う顧客は金に糸目をつけようとはしない。カミンズの研究部門トップのウェイン・エッカール氏によると、テスラ車は「感情的な買い物」だが、民間のトラック輸送業者であるカミンズの顧客は「感情で買うことは一切ない」。

カミンズは気候変動対策に真剣に取り組んでいるが、どのようなイノベーションを生み出したとしてもクリアしなければならない単純なルールがある。そのルールとは、1年半以内に採算を取ることだ。

一般市民も、今週ポーランドに集まった政治の指導者も、気候変動への懸念を強めている。ただ企業が温室効果ガスの排出量を大幅に削減する製品を生み出さないかぎり、解決策は手に入らない。イノベーションを生み出すのはそれほど難しい話ではないが、難しいのはその技術を消費者に買わせることだ。そのためには奨励金が必要だが、奨励金は政府に大きく左右される。政府の介入がなければ、太陽光発電も風力発電も電気自動車もハイブリッドカーも、化石燃料を使用する競争相手に対抗するための足場を得ることはなかっただろう。ただ政府の奨励金も十分ではなく、全く逆の方向に向かうこともある。

トラック輸送は低炭素技術をめぐる課題と報酬の両方を示すいい例だ。トラックは乗用車より台数は少ないが、走行距離が長く、重量もあるため、トラック全体の二酸化炭素(CO2)排出量は乗用車とほとんど変わらない。国際エネルギー機関(IEA)によると、陸路による貨物輸送が輸送関連の温室効果ガス排出量に占める割合は35%で、総排出量に占める割合では7%になる。

輸送する貨物が増加し、燃費の改善ではトラックより乗用車のほうが、進歩が速いため、残念ながら排出量に占めるトラック割合は今後、拡大するだろう。ただ幸いなことに、トラックの世界で徐々に起きている変化は乗用車以上に炭素排出量の削減に大きく貢献している。

2009年、米連邦政府はメーカーと連携し、トラックの走行距離を1ガロン当たり6マイル(1リットル当たり2.5キロメートル)から約10マイルに延ばす「スーパートラック」プロジェクトを開始した。燃料の消費を4割も減らすということだ。カミンズにとって、この目標はエンジンの効率(燃焼したエネルギーのうち、廃熱にならずに動力に変換される割合)を約42%から50%に引き上げるということを意味していた。

カミンズは現在、最適なシフトチェンジのために変速機とエンジンをつなげることや、燃費を最大化するためシリンダーの圧力を高くすることなど、プロジェクトの成果である技術の一部の具体化に取り組んでいる。昨年発売された主力の大型車両用エンジンは前のモデルより燃費が3〜8%延びた。

ただ金銭面で顧客の基準に合わず実現に至っていない技術もある。例えば、カミンズは廃熱をエンジンルームに戻すことでエンジンの熱効率を4%改善する方法を見つけたものの、この技術は1年半で採算は取れない。

2016年には、1ガロン当たりの走行距離を14マイルに延ばし、熱効率を55%に引き上げることを目標に「スーパートラック」プロジェクトの第2弾が始まった。エッカール氏は前回より今回の目標のほうが達成ははるかに難しいとみている。容易でコスト効率のよい改善は既に実行済みだからだ。実際のところ、従来のエンジンであれば熱効率が60%を超えることはない。

カミンズは小型・中型トラック向けに電気、ハイブリット、天然ガスでそれぞれ駆動するモーターを組み合わせたシステムも開発している。ただ長距離トラックには当面、ディーゼルエンジンが採用される。電気トラックは莫大なコストがかかる上、バッテリーの搭載により積載量が減るほか、充電の必要があるため今より輸送に時間がかかるからだ。

エッカール氏は規制がかかれば、顧客は採算が取れるまでに1年半以上かかる技術に金を出すとみている。米国政府はトラックを対象に、2027年までに段階的に導入される温室効果ガスの排出規制を実施中だが、エッカール氏はエンジンの基準がもっと厳しいほうがよかったと考えている。そうなっていればカミンズが専門とする(価格が高い)燃費改善技術に顧客が集まっていただろう。

ドナルド・トランプ大統領は温室効果ガスの排出基準を引き下げようとはしていないが、引き上げようともしていない。トランプ氏は気候変動の脅威を無視し、気候変動に関するパリ協定から脱退する意向だ。電気自動車や再生可能エネルギー向けの補助金も打ち切りたいとも考えている。

同時に、連邦規制当局は二酸化窒素(NO2)や微粒子などの汚染物質の排出制限を強化しようとしている。おかげでガソリンエンジンより1マイル当たりのCO2排出量は少ないものの、NO2や微粒子の排出量の多いディーゼルエンジンの魅力は損なわれた。

国ごとの対応にも開きが出ている。エッカール氏によると、欧州で議論されている炭素排出量の半減は「現在の内燃エンジンを法律で認めない」ことを意味するという。「米国はそのようなことは一切行っていない」

カミンズは排出量の削減より炭素税のほうがいいという考えだ。炭素税が導入され、顧客が気候変動のコストを吸収せざるを得なくなれば、燃料の種類を問わず、自然と低排出技術に金を出すようになるからだ。

カミンズのトム・ラインバーガー最高経営責任者(CEO)は「より効果的で、期待する最終結果を明確に定め、最善の解決策を生み出すために技術の競争を可能にするルールを望むのであれば、炭素税はその他全ての選択肢よりはるかに優れている」と話す。

しかし炭素税への期待は失われつつある。リベラルなワシントン州でも炭素税は2度も否決された。フランスは抗議運動の広がりを受けて燃料税の引き上げを延期せざるを得なくなった。つまり企業は低炭素経済の実現のために最も必要なもの――顧客の利益とこの目標を一致させる価格シグナル――がないままやっていなかければならないということだ。

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